【相合傘】
一緒に持った2人が入るにしては少し小さい傘。
当然、距離は近くなる。
触れる肩。
向かい合い、行き交う視線。
微笑みあって、
また前を向いて歩き出す。
これは私の遠い日の記憶。
彼はもういない。
彼が亡くなってから今日で早10年。
私はまだ立ち直れずにいた。
雨が降っている。
あの日も雨だった。
高校2年生。
はじめての恋人、はじめてのはじめての相合傘。
付き合いたてだったからあの日は彼も私も浮かれていた。
小さい傘だったから当然距離が近くなる。
触れ合った肩。
向かい合い、行き交う視線。
照れながらも微笑みあって、
また前を向いて歩き出す。
――赤信号に気づかずに。
そこから何が起こったかはわからなかった。
気がついたら病院にいた。
まさか自分がこのセリフを思う時なんて……と思ったのも束の間
隣には白い布を被った彼がいた。
私を庇うように抱きしめ、そのまま轢かれたらしい。
即死。
幸せな日々は壊された。
今日はこの日々を終わらせる。
あの日使っていた傘と同じ傘を手に持ち、
ベランダに出る。
……どうやら過去の記憶に馳せているうちに雨はやんだようだ。
嫌味ったらしい晴天が広がっていた。
まぁいいかと傘を広げる。
肩に何かが触れた。
そちらを見て、、、行き交った視線。
大粒の涙を目にため、精一杯微笑み、
前を向いて歩き出す。
――落ちる。
6/19/2023, 2:01:02 PM