雪女は頭を抱えていた。
冬山の神様が休暇先ではしゃぎすぎて足の骨を折ってしまい、すぐには国元へ戻れなくなったという。
道理でこの山里だけまだ秋の終わりがこない訳だ。雪女の住処の周りでも、散り時を逃したままの紅葉が梢のあちこちで所在なさげに縮こまっている。
しかし、そんな大事な報せを渡り鳥に託すなんて!神様なら夢枕にでも立ってくれれば良いものを。おかげで雪女の元まで話が届いたのは、立冬を二十日も過ぎた今日だ。本来の冬のはじまりにはてんで間に合っていない。
こうなっては仕方ない、すぐにも季節を改めねば。
雪女はさっそく神様の代わりに山じゅうを駆け巡り、大急ぎで精霊たちに冬支度を頼んで回った。そんな急には眠くならないとしょぼくれる熊には大粒の飴玉とオルゴールを渡してやり、滝の龍神には雨雲ではなく雪雲を呼んで欲しいとお願いをする。
あちこちへ声をかけ、とりなしを頼み、里へ降りて来た頃にはとっぷりと夜が更けていた。最後に明日の朝一番に大きな霜柱を立たせるよう池の精にことづけ、家に戻ろうした雪女は、ふと立ち止まって空を仰いだ。
「お月様、お月様。どうぞ明日の夜からは冬色の、銀の衣にお召し替えくださいな」
そっと声を掛けられた月は、きらりと微笑んでみえた。
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「冬のはじまり」
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所感:
冬のはじまる前について考えていたところ、それはつまり秋の終わりだと思い至り、田舎の里山の風景が浮かびました。冬の冴えた月は美しいですね。
11/30/2022, 12:10:24 PM