「愛があれば何でもできる?」
古い機械人形の私は罪を犯してしまった。
だからこの狭い空間に閉じ込められている。
罪。私をここに閉じ込めた彼はそう言ったけれど、私は罪など犯していない。ただ太陽と月が降りたあの日に出逢ったあのひとごと、宇宙を取り込んで愛してしまおう、そう思っただけなのに。
「だーーかーーらーーー!!!それが罪だって言ってるだろう?!!」
突然モニターから声が聞こえた。
「あのねえ!!!君が長い眠りから醒めるまでに色々変わったんだよ!!!ほんっとうに色々ね!!!」
「君が現役だった頃には勝手に宇宙を吸収しても問題なかったのかもしれないが!!!今は完全にアウトなのだよ!!!グレーどころか完全に真っ黒!!!」
「確かにこちら側の過失もあるが!!!それでも罪は罪!!!君は裁かれるべきことに手を出したってことだよ!!!いい加減自覚してくれたまえよ!!!」
「……今の君の体のデータから察するに、あまり多くの事柄を処理できないことは理解できる!!!ボクがそこはどうにかするからさ!!!」
「とりあえず!!!要点だけ押さえておいてくれたまえ!!!」
……全く、よく喋る。
「お喋りは苦手かい?!!それじゃあこのモニターに要点を表示するよ!!!……えーっと、これでどうかな?!!」
①君は重罪を犯した
②君は現在の法律によって裁かれる
③君はとある研究者によって永遠の眠りにつかされたが、何故か不完全な状態で目覚めてしまった
④君が眠っている間に宇宙管理機構や法律が大幅に整備された
「こんなとこかな!!!」
「追々他の仲間とも話し合って詳細は決める!!!覚悟しておきたまえ!!!」
……。どうして、どうして貴方は「罪を犯した」私に対してこうも親切なの?私が思っているほど貴方は邪悪ではないのかもしれない。けれど、そう簡単には信用したくない。
「ん〜、そうだね……強いて言うなら、先達である君への敬愛があるから、かな?」
敬愛?
「うん!!!敬愛だよ!!!君の目にはプリティでハートフルなボクがまるで悪の権化かのように映っているようだが!!!そーんな簡単に君を断罪できるほど薄情じゃぁない!!!」
愛。そう、それが貴方の愛の形なのね。
「あ!!!ダメだぞ!!!いくらボクが博愛主義者だからって!!!それにつけ込むようなことなんて考えちゃ───」
愛があれば何でもできる。
あの方を、あの時出逢ったあの人を愛しているのだから。
ただの機械でしかない貴方になど負けない。
「愛があれば何でもできる?……はぁ……。こうなったら仕方ないね。……ボクは君の何十倍、何百倍、いや、それ以上に君のことを知っている。……もちろん、君の名前も、ね。」
私の名前……?!
「そう。君の名前。君のような旧式の宇宙管理士は、名前を呼ばれた後に出された指示に従うように作られている。そのことは知っているよね?」
「……つまりだ。ボクは君の生殺与奪の権を握っているってことだよ。試してみようか?」
……やめて、それ、だけは。
「……安心したまえ。ボクが君の名前を知っていることは出任せでもなんでもない事実だが、悪用するつもりはないよ。また、会話は厳重に暗号化されているから盗聴の心配もない。」
「ただ、やはり君はこれから何をしでかすかわからないね。悪く思わないでくれ───」
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。ボクが起こすまで、眠っていてくれたまえ。」
静かだね。……もう眠っているようだ。
この空間はそう簡単に突破できるように作ってはいないが、万が一のことがあったら困る。
本当はこんな非道なことなどしたくもなかったが……済まないね。これも、ある意味での君に対する敬愛のつもりだ。
愛があれば何でもできる……か。
そうだね。ある意味間違ってはいないだろう。
誰かのため、何かのためを想った彼らのお陰でできないこともできるようになった。壊れたものを直したり、0から1を産み出したり。これらも全て、愛あってのものだ。
でも、君は「愛」という名の「創られた使命」そして「植え付けられた感情」に振り回されて苦しんだ。
チョーカガクテキソンザイのボクらが本当に「愛」を理解出来ているのか、なんて確かめようもないことなのかもしれないが!
……ボクが愛だと思っているこれが創られたものじゃないと言い切ることもできないが。
それでも、ボクは存在する全てのもののために、正しいと思ったことをする。
それがボクの愛の形だよ。
5/17/2024, 10:07:38 AM