与太ガラス

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 朝の閑静な住宅街を猛然と走る中学生男子の姿があった。

「あーサイアクだ。遅刻する」

 制服を着た少年はその上に【本日の主役】と書かれたタスキをかけ、頭には七色に輝く電飾付きの王冠を載せている。

「ねぇタカシ、ビックリした? 嬉しかった? サプライズ成功?」

 少年の後ろから母親と父親と大学生の姉が追ってきている。

「そりゃ驚いたよ! まさか朝起きて部屋から出たらいきなりクラッカーが鳴り出すんだから」

「だって今日は、タカシの誕生日だからっ♪」

「いやサプライズって普通忙しい朝にやるかなぁ!」

「だってぇ、タカシに一日嬉しい気持ちで過ごしてほしいじゃない」

「いつも遅刻ギリギリで起きるんだから、言っといてくれないと!」

「バカねぇ、それじゃあサプライズにならないじゃないの。それよりパーティーの料理おいしかった?」

「朝からステーキとお寿司とケーキなんか食べられないよ! あとなんでついてくるの?」

「だってサプライズの感想聞きたいじゃない」

「じゃあ言うけど、このタスキと王冠、なんで家を出る直前に付けさせたの? 誕生日のノリをあんまり外に持ち出さない方が良くない?」

「学校のみんなにもタカシの誕生日をお祝いしてもらいたいでしょ?」

「むしろ罰ゲームでしょ! いじめられてると思われるよ」

「あとなんで今日お弁当なしなんだよ!」

「朝からパーティー料理作るので精一杯でそれどころじゃなかったのよ」

「中学生は昼飯が命なんだよ! 残り物でもいいから弁当箱に詰めてよ!」

「そんなこと言わないで、みんなタカシのことを思ってやったことなのよ」

「あー、もう学校に着くから! これ以上ついてこないでね!」

「はーい、それじゃあいってらっしゃ〜い♪」

 腕時計を見るタカシ。

「よし、まだ遅刻じゃない、なんとか間に合った」

 校門を通ったそのとき__

『タカシくん、誕生日おめでと〜!』

 全校生徒からの祝福の言葉とクラッカーが大音量で鳴り響き、横断幕が広げられた。

「いやオレ愛されすぎぃ〜!!」

3/27/2025, 1:08:48 AM