かたいなか

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前回投稿分から続くおはなし。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、世界線管理局なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
都内在住の稲荷子狐が、週休完全2日制で、ここに修行に出されておりました。

前回投稿分でコンコン稲荷子狐は、優しい管理局員に連れられて、
月夜グリルなるレストランで、美味しいディナーをたっぷり堪能。
全部ぜんぶ、子狐が本来住まう方の世界とは違うアプローチで調理されておったので、
好奇心旺盛な子狐は、終始、尻尾ビタンビタンのブンブンブンであったのでした。

ところでこの稲荷子狐
ちょうど修行の一環として、
餅売りなどもしておりまして。

「つ き よ、 つーきーよ、 グ リ ル」
月夜グリルから貰ってきたクリスタルタブレットに、グリルのパンフレットが映し出されます。
知らない世界の技術が使われておるらしく、
パンフレットは子狐でも読める文字、すなわち日本のひらがなと、カタカナと、
それから、分かりやすい言葉で表示されています。

稲荷子狐はコンコンコン、月夜グリルで食べた新しい食べ物の、極上の香りも至高の味も、
それはそれは、もう、たいそう気に入ったので、
パンフレットをスワイプしてスワイプして、料理の画像と3D映像と、それから説明とを楽しみます。
もはや別世界レストラン・月夜グリルのパンフレットは、子狐にとっての新しい絵本です。

知らない料理 知らない調理 知らないアプローチ
餅売り稲荷子狐の、自分とは違う料理人が持つ視点によって作られた美味は、
子狐に良い刺激を、もたらしたのでした。

「!!」
はっ! と子狐、まんまるお目々を光らせて、顔を上げました––
まさしくこのこと、「自分以外の料理人の視点」の大事さを、先日誰かに言われたのです!
メタいハナシをするなら、すなわち過去作3月6日投稿分あたりで!
なにやらミカン、特に文旦、水晶文旦あたりの香りがするオジ幽霊から!

『オジっ……まぁ、オジ……いやお兄さん……』
子狐がパックリおくちを開けて、いわゆるワカッタ体験の余韻に浸っておりますと、
もわもわドロン、例のオジ幽霊、自認お兄さん幽霊が、子狐に貸与された部屋へ入ってきました。
『月夜グリルへ、行ってきたんだね』
なんでもこの幽霊、子狐がここを貸与されるずっとずっと前に、ここに住んでおったとのこと。
料理が趣味だったそうです。

『自分ひとりじゃ思いつかない調理法と、いっぱい、出会えただろう?』
優しい笑顔でオジ幽霊が、子狐に言いました。
『いっぱいいっぱい、いろんな経験をするんだよ。
経験は、お金より大事なもの。
お金だけじゃ得られない、貴重なものなんだから』

「けーけん、 けーけん」
子狐は貰った言葉を繰り返しました。
「経験」
3月から修行に来ておった子狐は、その日ひとつ、修行の結果として偉くなった気がしました。

『ということで子狐くん。せっかくだし僕の料理も、経験として食べてm』
「ありがとオッサンあそんであげる」
『やめて待ってやめて、おしり噛まないでまってやmぶんぶんしないで!振り回さないで!!
おねがホントにまっおねgあふん。』

経験はお金より大事なものになる、可能性がある。
コンコン子狐はそれっぽい言葉を、ぐりぐり。
修行用のスケッチブックにお気に入りのクレヨンで、メモしておきましたとさ。

3/9/2026, 4:52:19 AM