3匹の猫

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ちょうど休みが取れたから、暫くぶりに帰省した。
昼間は地元の友達とランチして、夜は幼馴染と居酒屋のはしご。
我を忘れるような飲み方は格好悪いから気を付けなさいと上司にお酒の嗜みを教えられたっけ。

ナツキは夜風に当たりながら、帰宅する頃にはすっかり酔いも覚め、寝ている家族を起こすまいと静かにドアを開ける。

もう化粧を落とすのは明日でいいやと、そのまま自室に行こうとした途中、洗面所の明かりが点いたままになっていた。
誰か消し忘れたのかなと思ったけど、どうにも弟が起きていたようだ。
何となく覗いてみると、鏡に向かって自分の顔と睨めっこする弟がいた。
おでことほっぺにニキビが出来ていることに深いため息をついている。
思春期真っ盛りのヤマト少年はニキビに悩むお年頃なのだ。

どこを見ているのか焦点が合わずぼんやり空を見つめたかと思えば顔を真っ赤にして声にならない声を上げている。
ナツキの視線も気付かないほどで、どうも様子がおかしい。
しばらくすると鏡に映るニヤける自分をじーっと見て、真面目な顔を作ってから少し首を傾げ、口を突き出して目を瞑ったーーーー。
ーーーー弟の鼻息は荒かった。

ナツキは音を立てないように自室に戻ると、笑いを堪えるために抱き枕とのたうち回った。
落ち着いて考えてみたら、ヤマトに最近彼女が出来たらしいと母が言ってたなと思い出す。

夜中にキスの練習をする弟が何とも言えない。
鼻息荒くチューと口を窄める弟の顔の気持ち悪さと言ったら百年の恋も冷めるだろうに。
眠れないほどの興奮が伝わってくる。
明日はデートなんだろうな。
しかも初キス記念日かよ!?
緊張と寝不足で失敗する画が目に見えるようでだんだん心配になってくる。

初めてのキスなんて自分も通ってきた道。
ドキドキが止まらなかった。
たった数秒、唇が重なるだけのことなのに。
味なんて何もない、ただ焼け付くように熱かったキス。
一つ上の先輩との日々は今思えば青春だった。

ナツキは胸に広がるじんわりとした思い出を抱き枕と一緒に抱きしめた。
自分の弟ながら少し気持ち悪いけど微笑ましい。
デートの成功を願いながら眠りについた。

2/4/2024, 2:38:18 PM