Morris

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小気味よい金属音のあとに、彼の煙草に火が付いた。それと同時に、肩口に雫が跳ねた。 

「うーん、今日傘持ってきてないけどな……」
「だね。大丈夫だよ、送っていくから」
「いいの?ありがとう」

ガソリン代くらいは、と財布から札束を出そうとしたが断られた。その代わりと、彼に傘を差しておく。
 
湿って重苦しい空気で、煙がいつもより鮮明に見えた。

「雨の日って湿気で煙が重くなるんだよ」
「そうなんだ。言われてみれば、確かに……」
「やべ、煙が……場所変わろう」

私は平気だが、彼は気にするタイプらしい。

「雨の日って良いよね」
「頭痛が曲者だけど、雨上がりの空気は最高にいい。家にいる分には最高の天気だよ」
「ね、俺は匂いが好き」
「土の匂いかな?なんとなくわかるかも」

吐き出した煙が昇る。どうやら一過性の雨だった。

「毎回ついてきてもらって申し訳ないね、吸い殻捨ててくる」
「いいよ。吸ってるところ見るのも好きだから」
「あはは、ありがとう」

空を覆う雲は逃げ足早く過ぎ去っていく。
差し込む晴れ間が、地面を焼き付けるのも時間の問題だろう。

「おかえり」
「ただいま。遅くなる前に帰ろうか」
「わかった。お邪魔します」


『夕立を凌ぐ』


お題(9/28)
「通り雨」

9/28/2023, 1:23:08 AM