風の強い日だった。
お骨が飛んでしまわないように急いで拾って小さな壺に詰めた。
シロのお骨は、その小さな骨壺の底しか埋めないほど小さく僅かなものだった。それでも、こんな小さな身体の骨をきれいに残すことは相当な技術が必要なはずで、出張火葬業者さんには感謝しても感謝し切れないほどだった。
シロの身体が骨になったら、私は悲しくてまた泣いてしまうのではないかと思っていた。けれど違った。ようやく病気から、身体から解放されて、シロは自由になったのだと感じた。
きれいなお骨にしてもらえてよかったね。
私は自然と心の中でつぶやいていた。この数日泣き腫らした心に、不思議と温もりが灯りはじめていた。
業者の方によくよくお礼をして、シロの骨壺を抱えて家に戻った。
「おかえり」
シロに言った。
靴を脱ごうと少し屈んだ時だった。服の上から何か砂のようなものがポロポロと床に落ちた。
えっ、なに?
屈んでじっと凝視する。
先ほど見たばかりのものとよく似ていた。白くて細かい砂のようなもの。
あっ! シロ!
シロだよね!? ごめん!
私は慌てた。溢れたものを拾い集めて、封をしてしまった骨壷の代わりに透明の小さな小瓶に入れる。
風の強い日だった。気付かないうちにシロの一部が私の服に降りかかっていたのだ。
全てのシロの一部を小瓶の中に収めて、ようやく私はホッと胸を撫で下ろした。
それを持って部屋にあがり、臨時の祭壇に置き、じっとその砂丘の砂のようなシロを眺める。
ホッとした途端に、思った。お骨にしてもらうためにはじめて私の元から数十分ほど離れたシロ。
『ただいま!』
風に乗って飛びかかってきたんだね。新しい姿になって。
帰ってきたんだね。この腕の中に。
悲しみの中で、ふふ、と少し微笑みが溢れた。
これまで守るべき存在だったシロが、急に頼もしい存在に思え始めていた。どこか近くにいて、私を見下ろしている。
それは私がはじめて経験した、火葬のーー弔いの温もりだった。
『風に乗って』
4/29/2024, 4:20:44 PM