まこここ子

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 滑走路を猛スピードで走り、地面から離れ、少し前まで住んでいた街にさよならを告げる。雲を突き抜け、乱気流のなか、飛行機になんて乗り慣れていないわたしは、ああ墜落しなければいいな、なんて他人事のように思った。
 とんでもなく、あっけなかった。日常が壊れるのも、飛行機が飛び立つのも。周りは目まぐるしく動いているのに、わたしはなにもできなかったから、まるでわたしが騒ぎの中心にいるみたいだった。あれやこれやで、国境を越えた引っ越しが決まって、わたしは、お母さんが死んでから、わずか6日で家を出ることになっていた。

 やはり葬儀もあっけないもので、棺の窓から花まみれのお母さんの顔を見ても、お母さんが死んでしまったことへの悲しみもなく、飲酒運転をしたトラックドライバーへの憎しみもない。立ち上る煙に涙を流すこともなく、崩れていく日常と、周囲の大人たちからの哀れがる目線を感じていた。そんな中わたしは、外国人であった離婚済みのお父さんの話を受けるしかなく、お父さんの元へと移住することになったのだ。
 3日かけてまとめた荷物は、諸々を捨てた結果、大きなキャリーケース1個に収まるくらいになった。わたしの15年間、なんとポータブルな人生。わたしはそれを、初めての空港でも迷うことなく手荷物預け場で預け、難なくチェックインも終え、たった一人で人生の新たな門出を切ったのだ。

 もう窓からは、とっくに街は見えなくなっていた。わたしの平凡な日常は、崩れ去った。実感なんてない、浮いてしまいそうな心持ちで、一面に雲しかない白い窓を見ていた。
 ああ、もう何もないな。学校でできた友達も、ピアノコンクールの出場も、この先の人生の展望とかも。お母さんも。真っ白になってしまった。友達と原宿スイーツ食べに行きたかったな、ショパン弾きたかったな、あの街で、もっとやりたいことあったのにな。
 ……お母さん。ほんとうに、死んじゃったんだ。窓から見える白い雲。白装束に白い顔。あれほど生命に溢れていたものが、こんなにも無機質になれるんだなと思った、棺窓。花だけは色とりどりだから、それが余計に、無生命を引き立てて。まるで、青い空に、赤い夕焼けに、暗い闇夜に、白い雲が映えるように。

 上空1万メートル。やっと、お母さんの死を咀嚼できるかもしれない、と思った。

9/25/2024, 11:04:02 AM