木枯らし
はらはらと青空に舞うイチョウの葉。
風は、くるくると円を描く。
移ろう季節が美しいと、あの人は教えてくれた。
少し前に、どんな物事が起きても、何をしていても心が動かない時があった。自分の内側に塞ぎ込み、目に映るものは全て灰色だった。
雨の日、イチョウの葉は水たまりの中で溺れているようにも見えた。
ふと、想い出した。
後部座席の窓に貼り付くように眺めたあの情景を。
鮮やかな黄色に色付いた葉は、まるで生きているかのように舞い、車は黄色のカーテンをくぐり抜けて行く。
あの人は「綺麗だね」と言い、たくさんのことを教えてくれた。
葉が色付く理由。秋から冬へ向かうこと。
イチョウには実がなり、「銀杏」という名前で、ちょっと匂うけど、美味しいこと。
木には年齢があること。
自分の心が動いた。
雨の日、水たまりの中のイチョウの葉は、鏡に映したようで綺麗だった。道の上、色を深めた黄色は絨毯のようにどこまでも続いていた。
「あぁ、綺麗だな。」
ひとり呟いた。
木枯らしが吹く度、あの人を想い出す。
願わくば、移ろう季節の隣には、いつまでもあの人が居て欲しい。なんて、神様は許してはくれないだろうな。
だからせめて、移ろうたびに離れていくあの人と、今、共に過ごす時間を心に刻む。
自分の心が動く限り。
長くなってしまいました。
ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。
では、また。
1/17/2023, 3:09:34 PM