池上さゆり

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 虫が光に魅かれて飛んでいくように、人もネオンの明かりに魅せられる。
 だからこそ、ここは夜のない街と呼ばれ、多種多様な人が集まってくる。
 真夜中に出歩いているせいか、この街がそうさせているのか、未成年がコンビニで酒やタバコを買っても年齢確認されない。縁石に座って、寿命を縮めていく。一本で約五分半。一箱で約二時間。じゃあ、二十歳で死のうと思えば、何本吸えばいいのだろうか。人間の寿命を百歳として、八十年分。わからない。学校に行ってないせいで、こんな簡単な計算すらできない。
「お嬢ちゃん、ちょっといいかな」
 警察官二人に声をかけられた。特に返事もせず、目だけ合わせる。
「なにか、身分証持ってない?」
「持ってないけどなに? 補導? それとも逮捕?」
 きっと家に帰るより、刑務所で過ごした方がまともな生活ができる。逮捕されるなら、されるで良かった。すると、後ろに立っていた警察官が話しかけてきた人に耳打ちしていた。
「成人しててもここは危ないから早く帰りなよ。あんまり治安のいい場所ではないからね」
 なにを言ったのだろうか。特に職質されるわけでもなく、二人は歩いていった。
 どうして誰も見向きしてくれないんだろう。悪いことをしているのはわかっている。だけど、それを叱ってくれる大人が身の回りにはいない。
 正しい道を歩けるように、誰かに手伝ってもらいたい人生だった。悪いことは悪いと叱ってくれる人がほしかった。
 誰からも見てもらえないこの人生は、あと何本のタバコを吸ったら終わるのだろうか。

5/17/2023, 12:35:31 PM