愛情の数値を、紙に書いて提出する学校があった。
導入された経緯などは、生徒たちにはよく分からないのだが、体温を確認するみたいなものだろう。
ちなみに隣の欄は「今日の体温」だ。
その人は女の子だったので、丸くかわいい字で数字を書いていく。
体温 36.4
愛情 36.4
親から示された愛情を、このように100分率で書いていく。36.4%受けてきた、という意味だ。
子どもの立場を鑑みると、愛情とは与えられる側だから、このような記述となるだろう。
体温と同じ結果になる。
風邪を引いて体温が上がると、いつもよりやさしくなる。大丈夫? 苦しくない? と親は子をわが子のように心配し、甲斐甲斐しく接する。
しかし、風邪が治ると愛情の数値が目減りする。
不機嫌になり、意見の相違があるとケンカをするようになる。
「先生、愛情って何ですか?」
まるで、勉強をする意味を他人に問うように、担任の先生に尋ねた。そうすれば、いつものように教えてくれる。そうだと思い込んだ。
しかし、今日ばかりか今月の担任は、げんなりとした顔つきである。美術の時間で習った言葉。グロッキー。
「入院すれば、分かるようになる」
「入院しないと分からないってことですか?」
子どもの質問を無視して、
「ああ……、今すぐにでも入院したい」と独り言。
「そしたら、金を稼がなくても親がお金をくれるようになる。もう残業したくない」
先生は頬杖をついた姿勢から、自分の顔をサンドイッチの具材のようにした。横方向からぐちゃっとした濡れた唇が縦に開いた。その中から覗いた前歯が汚い。そしてヤニ臭い。
こんな大人にはなりたくないなあ。
目が悪く、教室の最前列……。
くじ運も悪く、教壇の目の前が定位置である生徒はしばし心のなかで毒づく。
そして嘘だらけの紙切れに向き直った。
「もう辞めたい……」
「うるさいです先生」
11/28/2024, 9:55:26 AM