わたしはピアノを習っていた。
習いたかった訳ではない。わたしはダンスを習いたかったのだ。MGMミュージカル映画に憧れていた。
だがダンス教室は近くにないと言われ、親の希望でピアノ教室に通わされた。親はピアノを習いたがっていたからだ。だが戦中戦後生まれなので叶わなかった。
わたしは親の身代わりにされたのだ。
興味も持てないピアノを習うのは地獄だった。
まず音符がいつまで経っても読めない。一度お手本を耳で聴かないと弾けない。耳はそこそこ発達したようで、音あてクイズは得意だったが、弾くのは苦手だし練習する気にもなれなかった。
ピアノの先生が結婚なされて、教室自体が終わったのは小学生の頃。そこからわたしは殆どピアノを弾かなくなった。大人になった今では指も動かない。でも、好きになれないものを、習い直す気にはなれなかった。
【失われた響き】
11/29/2025, 10:11:44 AM