雨が降っていた。冷たい雨粒が窓を叩く音が、彼女の心の中に広がる寂しさをさらに際立たせる。
由梨はベッドに座り、震える指でスマートフォンの画面を見つめていた。そこにはたった一言、「ごめん」というメッセージが浮かんでいる。
たったそれだけで、すべてが終わったのだと悟った。彼の顔が思い浮かぶ。優しくて、時に不器用で、それでも彼女を大切にしてくれた。その笑顔がもう自分に向けられることはないのだと気づいた瞬間、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
「……嘘でしょ?」
呟いた声はかすれていて、自分のものではないようだった。涙は出なかった。ただ、頭の中が真っ白になっていた。
外では雷が鳴った。ふと、彼と最後に会った日のことを思い出す。
「由梨、ごめん。もう、無理かもしれない」
その言葉を聞いたとき、彼の表情は曇っていた。けれど、彼女は笑って「そんなこと言わないでよ」と強がってしまった。本当は気づいていたのに。彼の心が、自分の元から離れつつあることを。
どこで間違えたのだろう? 何がいけなかったのだろう?
机の上には、彼からもらった小さなアクセサリーが置かれていた。誕生日にくれたものだ。指でそっと触れると、冷たく硬い感触が指先に伝わる。彼の手の温もりを思い出し、やっと、涙がこぼれた。
音もなく、ただ静かに流れる涙。
スマートフォンの画面は暗くなり、そこに映るのは自分の顔だけだった。涙に濡れた瞳は赤く腫れ、唇は震えている。それでも、涙は止まらない。
――こんなにも好きだったのに。
何度もそう思った。
雨はまだ降り続けていた。夜が明けるころには、きっと止むのだろう。彼女の涙も、いつかは止まるのだろうか。
それは、今はまだわからなかった。
完
お題:涙
3/29/2025, 10:22:09 AM