「どうしたの、この花」
見慣れた部屋の中
部屋の隅っこから新鮮な気配を感じたと思えば、
そこには春らしい小さなブーケが飾ってあった
「特に何も無いけれどお花屋さんの前を通って、
素敵だなと思ったから」
「確かに素敵だね。どうもありがとう」
切り花は好きだ
人工的に摘み取られて
もう時期途絶える命だからこそ
咲いている間の美しさは他に類を見ないと思う
近づいてその春の空気を観察すると、
ガーベラ、すずらん、フリージア、
色とりどりの花々の中にひっそりと息づいた
懐かしい気配に気がついてしまった
「この水色の、小ぶりな花、可愛いよね
名前なんて言うんだろう」
「……なんだっけ、忘れちゃった」
「お花屋さんが教えてくれたはずなんだけど、
なんだっけ、花言葉がちょっとロマンチックなやつ」
私は黙ってその花を見つめていた
今を見つめながら同時に自分の過去も見つめていた
そして記憶の中の彼女に
こんな事をしなくてもあなたを忘れることは無いよと優しく告げてみたが、
その後の数週間ずっと
勿忘草だけが枯れることを忘れたように咲き乱れていた
2/3/2024, 6:05:22 AM