『届かぬ想い』
君の足跡をたどっていたら、知らぬ土地の知らぬ海にたどり着いた。
真っ白な砂浜がどこまでも広がっていて、海のコバルトブルーがグラデーションを描いていた。
砂はサラサラと風で模様を作り、陽の光に反射してキラキラと輝いていた。
その海は、静寂に包まれていた。人は誰もおらず、寄せては返す波の音だけが辺りに響いていた。
それさえもどこか遠い世界のもののように聞こえて、僕はこの世界でひとりぼっちになってしまったような感覚になった。
いや、もしかしたら僕は、本当にひとりぼっちになってしまったのかもしれない。
君の足跡を綴った手紙は、真っ直ぐ海に続き、波打ち際で途切れていた。
ふと、足元に薄ピンク色の貝殻があることに気がついた。
彼女の頬のような、柔らかく上品な色だった。
僕はそれに手を伸ばして、触れようとした瞬間に消えてしまった。波にさらわれてしまったみたいだ。
あぁ、また届かなかった。
遅かった。
ふと、風が強く吹いた。下からすくうような風で、数枚の白い紙が宙を舞う。
今度は僕の手から手紙がさらわれてしまった。
あぁ、いってしまった。
ちゃんと掴んでいたはずだったのに。
波打ち際をぼんやりと歩く。
ここはどこだろうか。
たどり着くまで、彼女の最期の手紙に書いてある通りに旅をしてきた。
結局僕は、彼女のことを何一つ分かってはいなかったんだ。分かった気になって、それきりだったんだ。
潮の匂いに混じって、桜の最後の花弁が舞う。
桜は全て散った。
君が好きな季節ももう終わる。
それなのに僕は、君の愛したこの場所を知るのにずいぶん時間が経ってしまった。
ポケットを探る。左人差し指に固く冷たい感触が伝わる。それをそっと掴んで取り出して、水平線にかざす。
白い塊に陽が透けて、その優しく穏やかな光に君の姿が見えたような気がした。
僕にはもう、これしかない。
たった一つの小さな、白い欠片だけ。
君の欠片だけ。
届かない思いを抱えて、残された唯一を無くさないよう、僕は静かな海に身体を溶かした。
2026.04.15
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4/15/2026, 11:35:11 AM