風に身をまかせ
たんぽぽは、その綿毛を遠くに飛ばす為に背を伸ばすと聞いたことがある。
「あの」
伊波は、ちょうどたんぽぽのように無理をして笑顔を貼り付けたまま、強張った顔で言った。
「それは、我々に “死ね” という認識で間違いありませんか」
「って言ってみたけど、駄目だったねぇ」
そして今、彼はその任務地の、乾き切らない地面に肢体を投げ出していた。風だけは絶え間なく流れているものだから、割れたゴーグルの隙間から風が入り込んでは前髪が踊った。顔を撫でる優しい風を受けながら、しかし次の瞬間には、うつらとしていた意識はあっという間に覚醒した。
「──」
「っ、」
その名前にはどこか聞き馴染みがあった。しかし思い出す間もなく、次の言葉が降ってくる。
「──、起きろ」
「え、」
「そこは、お前の夢じゃないだろ」
「まって」
ぶわり、大きく風が吹いた。
その風に背を押されるまま、伊波は一歩踏み出していた。
ぱしゃん、と軽い水音が鳴る。それで初めて、伊波は自身が小さな川に片足を突っ込んでいたことを自覚した。
5/14/2026, 3:19:19 PM