「過去と現在を記録することで、未来が見えてくる、ってのが、天気予報の降水確率だっけ?」
「もしも」どころか実際に「未来を見れる」、予測できているから、お題とは少々違うかもしれんが。
まぁ未来の天気を見れるから、明日は家でゴロ寝よ。
某所在住物書きはスマホの天気予報を確認しながら、ポテチなどカリカリかじっている。
確率として、事実未来を見れるから、後日の予測が可能。これは今日のハナシに丁度良いと考えた。
「他に未来を見る方法っていえば……なんだろな」
次回日本で見られる皆既日食や皆既月食の日付とか?物書きは呟いた。 ネット検索によると、前者が見られるのは2035年9月2日の能登半島から北関東にかけて、後者に関しては来年の9月8日だという。
――――――
例年の「4月」が何℃前後で推移していたか、感覚が麻痺する程度には夏日の頻出する東京である。
都内某所、某比較的閑静な住宅街の一軒家では、
諸事情で3月から居候している雪国出身者が、スマホの天気予報、特に来週の木曜日の最高気温に絶望して、開いた口が塞がらない。
25℃である。夏である。
故郷の6〜7月相当の最高気温に多大な衝撃を受けているこの雪の人は、名前を藤森といった。
『生きてるか?来週の木金もリモートにするか?』
直属の上司の緒天戸からは、藤森宛てのショートメッセージがピロンピロン。
彼もニュースか何かで、天気予報を見たのだろう。
あるいは彼の孫、藤森の居候先の一軒家の家主、親友の宇曽野からのリークを受け取ったか。
高温により宇曽野邸で今日も藤森が溶けていると。
『お気遣いありがとうございます』
なかば定型文的、自動回答的に、メッセージを返す。
『生きています。木金、問題ありません
暑くなる前に出勤して涼しくなってから帰ります』
未来を直視した影響により、藤森の思考は過負荷で一部思考が重くなっている。
おのれエルニーニョ。おのれ季節外れの高温。
頭がサッパリ働かない藤森は、宇曽野から恵んでもらったガリガリアイスをかじり、口に含み、脳のクールダウンを試みて、結局失敗しているようであった。
要するに藤森にとって未来と現在が双方暑いのだ。
スワイプスワイプ、更新。「実は木曜日の25℃予報、予報アルゴリズムのバグでして、本当はもう少し涼しいです」の都合良い未来を見れやしないかと、
スマホに指を滑らせていた藤森。
「11時だ。 そろそろ、メシの準備をしないと」
再度明記するが、未来の最高気温を見てしまったために、藤森の思考は過負荷状態である。
なかば本能的、なかば義務か責任か使命近辺のそれで、藤森はフラフラ、キッチンに向かった。
その義務か責任か使命近辺の行動にヒヤリハットの未来しか見えないのが家主の宇曽野である。
「おい藤森。ふじもり」
「なんだ、うその。メニューのリクエストか」
「そうじゃなくて」
「申し訳ないが、きょうは、つめたい食い物でカンベンしてくれ。わたしがとけてしまう」
「そうじゃなくてだな。 俺がお前に部屋を貸してやって、お前がそれに恩を感じてくれてるのは構わんし、毎日飯の用意だの家事の手伝いだのをしてくれるのも助かるが、そのフラフラで料理されても」
「ひやしめんはキライか?」
「麺の前に頭冷やせ。な」
ふわふわふわ、フラフラフラ。
雪の人藤森は綿雪のように、ガリガリアイスを咥えさせられ宇曽野に背中を押されて、軽く軽くソファーまで運ばれていく。
「うその、おまえ、料理できるのか」
「今の状態のお前よりは、俺がざる蕎麦なり冷やしパスタなり作った方が何百倍も安全だ」
「ひやしパスタにするか?」
「座ってろ。今日はキッチンに立つな」
あーあー。こいつは。この義理堅い真面目な親友は。
大きく長いため息ひとつ吐いて、今日の25℃と来週木曜の25℃予報に溶け気味の親友をソファーに座らせた宇曽野は、髪をかき上げ手を洗い、厨房に立つ。
もしも未来を見れるなら、数十分後のそれには、
室温が上がって更にデロンデロンに溶けた藤森と、
ツナと塩レモンのクリームパスタを手に二度目のため息を吐く宇曽野が映っていることだろう。
4/20/2024, 2:55:40 AM