駒月

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 私の師匠は不器用だ、と思う。

 師匠はいつも私が欲しい言葉をくれない。「大丈夫か?」「つらそうだな」とか言ってくれてもいいのにね。
 でも、私が熱を出した時に、そっとおでこや頭を撫でてくれる手が好きだ。骨が少しごつくて、ひんやりしてて気持ち良くて。
 だからいいんだ。言葉にしなくても私には伝わっている。
 心配だって、早くよくなれって、そう言ってる。

「ふふ」
「まだ起きているのか、早く寝ろ」

 呆れたような、ちょっと怒ったような声。
 仕方ないじゃん。今日も師匠は優しいんだから。
 
「よいしょ」

 頭の位置をずらした。具体的に言うと、師匠の膝の上に移動した。
 師匠は「おい」と迷惑そうに言うけど、きっと迷惑じゃない。甘えられて嬉しいくせに。私は知ってる。

「風邪、うつったらごめんね?師匠」
「俺は馬鹿じゃないが、風邪は引かん。風邪を引いた馬鹿は早く寝ろ」

 ほらね。
 こんなひどいことを言うけど、絶対私を離さない……撫でる手は優しいんだ。




【優しさ】

1/28/2024, 1:30:22 AM