浜崎秀

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 朝起きて、カーテンを開ける。空気を目一杯吸い込んで、ふと前を向く。目が合った。多分相手も同じことをしていたのだろう。なんだか気まずい。

 朝時々見かけて、軽く会釈する程度。会話なんかしたことない。家の外で見かけるあの人は、スーツを着こなしてて、『大人』って感じがした。

 そんな人の意外な一面。ボサボサの髪、寝起きでショボショボの目、庶民的な部屋着。好きだったわけじゃない。ただオフショットが見られた優越感に浸っていたかっただけ。

 もう一度見れないかな。

 その日から朝起きると、カーテンを開けるようになった。お隣さんは気まぐれで、開いてる日もあれば閉まってる日もある。偶に姿を見ることができて、テンションが上がる。

 そして数年が経った。

 その日、カーテンを開けると、隣の部屋は空っぽだった。

 正確には、物がないわけじゃなかった。ただ、そこにあったはずのあの人の痕跡が消えてた。

「お隣の〇〇さん、一人暮らしするんですって」

 朝食の席で暫く前にそんな話を聞いた気がする。そうか、〇〇さんっていうんだ。そんなことも知らなかった。

 翌日も、そのまた翌日もカーテンを開けた。そして毎日、空っぽの部屋を見つめる。

『カーテン』

10/11/2022, 12:10:34 PM