葉月

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「赤い糸」

 私の運命の赤い糸は三本ある。

 私の生まれた場所には、真っ直ぐ南に大きな汽水池があり、その池の向こうに小さな社があった。「白竜さん」と呼ばれていた。 
 子どもの頃、池の淵でこんこんと水が湧き出る場所があり、お気に入りの場所だった。あれは九歳の時のこと。いつもの場所で遊んでいたら、家の裏山から蛇がぞろぞろと川の様にやってきた。あまりの多さに恐怖で立ちすくんでいると、足の間をすり抜けながら、池の中へと入り泳いで行った。白竜さんの鳥居に黒い丸が現れ、蛇はその中へと消えていった。その三日後、台風で裏山が崩れ家がなくなった。家族は避難していて全員無事だった。
 祖母は毎朝、白竜さんにお水をお供えして手を合わせていた。   
 
 私はやがて結婚して蛇歳生まれの息子ができた。やがて離婚して、大きな手術を受けた。その後、たくさんの神秘体験を繰り返した。その中で最も印象的なものが悪魔との戦いに苦しんでいた頃、
「私もあなたを守ります」と現れたのが白竜さんだった。私の周りにトグロを巻いて隠してくれた。

 その後、私はいまの夫と出会うことになる。初めてデートした時、植物園が閉園していたので、近くの深大寺に行く事になった。そこで出会ったのが、こんこんと湧き出る泉だった。いまの夫も蛇歳である。
 赤い糸は一本とは限らない。手術は二度目も成功して、まだ何とか生きている。しかし今のところ治る見込みはない。先日、息子に初めて白竜さんの話をした。私はガラスの龍を祀っていて、毎朝手を合わせている。息子に死んだら龍の世話を頼むとお願いした。手を合わせると白竜さんの社がまぶたに浮かぶ。
「私と白竜さんはこの龍を通じて繋がっている」
 そんな話をした。白竜さん、息子、いまの夫。私は今生、三本の赤い糸で結ばれたご縁があった。来世でも、いずれかとのご縁があります様にと祈っている。


6/30/2023, 3:31:36 PM