レド

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 夢を見ていた。
 狭い自室で、傷だらけの天井を見上げながらそうと知った。どんな夢だったのか、思い出そうとしてもまるで陽炎を掬おうとしているみたいに何も掴めない。額と背中にじっとりと嫌な汗をかいていた。立ち上がって窓を開ける。むわりとした熱気が、澱んだ空気を掻き回す。
 気の遠くなるような蒸し暑い空気の中に、ふとすみれの香を嗅いだような気がして、どきりと胸が脈打つ。確かめるように息を吸い込んで、結局、肺にカビが生えそうなじめじめした空気を味わう。
 胸元の鎖を手繰り寄せ、小さなロケットを開く。隅に咲く花のような慎ましい笑顔の少女と、その隣で仏頂面をするおれの写真。
 友達だった。隣の家に生まれ、隣の家で育った少女だった。親同士の交流が深かったのも相まって、ほとんど家族同然の時間を、二人で過ごした。
 そして、大きくなって結婚しても隣同士、夫婦同士の近所付き合いをしようと約束した。
 約束したんだ。
「あれ、あんた何見てんの?」
 同居人の明け透けな声で我に返る。ロケットを元通りに首に下げ、おれは平然と微笑み返す。
「なんでもねえ。昼寝していただけだ」
「ふうん」
 彼女は興味なさそうにそれだけ言って、「ご飯できてるよ」と部屋を出て行った。
 そう、約束した。
 だからおれはそれまで、この世界を生き延びなくてはならないんだ。

(架空日記4 ジャック)

7/25/2022, 6:28:07 AM