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ふたり



あなたはわたしのために
花びんに生けられた
赤いばらの花の油絵を描いている。

わたしはあなたの後ろに立って
りんごを持ってきた
あなたとわたし
ふたりで食べたいと。

あなたは絵に集中していて
わたしにまだ気づかない。

『あっ!』

突然のあなたの叫び声。

あの一瞬で
あなたとわたし、ふたりの世界は
崩れてしまった。


*****


わたしはぼうぜんと
腰かけたままのあなたを見た。
隈を浮かべていたあなたの
くちびるはふるえていた。

鮮やかな赤が
紅が
あなたの周りに、床に飛び散っていた。

『ねえ、だいじょうぶ?』

あなたは身をかたかたとふるわせて
立ち上がり一歩ふみだすと

へちょり。
赤が 紅が 床をそめた。

あなたは 床のあかに
びくりとおおきく身を震わせると
わたしに向かって涙を流し

『ごめんね』と繰り返しながら
床に散らばった絵の具を
拾いはじめた。

先ほど踏んだ
絵の具のチューブで
あなたの手は紅く染まる。

しかも

赤いばらの花の
絵の具のついたパレットが床にはりつき

ふたりで使うアトリエは
あかい絵の具で染まってしまった

あなたに何もけがもなくて
はりつめた糸が切れたわたしは
からだから力が抜け
床の上にくずおれる。

お気に入りの白いワンピースに
床に染まる赤を 紅を
身にまとってしまった

このやるせなさは
どこへむけたらいいのだろう。

持ってきたりんごが二つ
紅く染まって
床の上をころがった。

ああ 食べられなくなってしまった

床に転がったままのわたしは
絵の具に染まったりんごをながめていた。

8/30/2025, 1:08:27 PM