星空の下には街灯が仄かに暖かく光っていた。
与助は恋に哲学めいていた。
彼は幼なじみの千代に何とも言い難い想いを抱き始めた最中であるのだ。
彼女は人懐っこいため、十八になった今でも与助の家に来ては与助の母と、この服は海外からきたものなんだとか昨日小さな真珠を買ってもらったなどと仲睦まじく話していた。
丁度この日の夜も千代が帰った後で、彼女の燦燦とした声がなくなったからか、家は妙にしんとし、与助をしんみりとさせた。
与助はもう黒く染まってしまった空を、二階の窓から見上げようとしたが何かが重くのしかかっている様な気がして苦しさを感じたので、やめた。
代わりに地平線まで続く街灯を数えた。丁度地平線の際の辺りに千代を含めた叔父達が住んでいる。
それ程遠くないはずなのに、街灯以外すべて真っ暗闇が打ち寄せて侵食された建物のせいで大分千代が向こうに行ってしまった様に感じた。
彼女ももう十八である。彼女は白い肌に可愛らしい目鼻を兼ね備えていたし、頭も良かったので、縁談は沢山来ているだろうと最近母から聞いた。其の時だろう、与助の中の千代が知らない形に変わり始めたのは。いや、変わったというより溶けていったに近しいかもしれない。母の話を聞いた時、不覚にも自分の頬が赤くなっていったのを覚えている。
与助の脳は彼女が知らない誰かに娶られるのを想像するのを拒んだ。ある安直な考えが頭に浮かんだ、もしやこれは恋なのだろうかと。
然し、恋なら大分淡白だなあと思った。
また与助は昔から愛や恋においての男女の単純さを軽蔑していた。同じ場所に男と女がいれば妥協を繰り返しながらも結局直ぐに恋に堕ちてしまう。なんと浅はかな事かと。然し其れと一寸違わず同じことが自分と千代の間において起きているかもしれないのだ。いや千代はそんな事微塵も思っていないだろうから与助のいう浅はかな男女は与助だけだった。
はあ、と溜息をついた。
もう一度窓の外に目をやった。
自分の真上の夜空を見上げる事は何となく重苦しくて出来なかったが、地平線近くにある千代の上にある紺碧の夜空は顔を上げずともはっきり見えた。
そこには砂を散りばめたような満天の星が輝いていた。
その星を見て、ただ千代には星空の下で明るく育って遠慮なく僕の家に来てほしいなと暖かく思った。
もう直ぐやってくる日が登る時、与助のこの気持ちは恋なのか、将又違う何かなのかすぐに分かるだろう。
4/6/2026, 3:37:09 AM