いろ

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【ありがとう、ごめんね】

 ごめんね。そう謝れば君の瞳に少しばかりの苛立ちがよぎった。早朝の駅のホームに、波の音が大きく響く。目の前に広がる海の水面を、昇ったばかりの朝日がキラキラと輝かせていた。
 遠く電車の音が聞こえる。このホームに電車が訪れ、それに二人で乗り込んだら。もう僕たちは戻れない。味方なんてどこにもいない二人きりの逃避行を始めるしか、ない。
 僕と出会わなければきっと、君はこの村で幸せに生きていくことができたのに。村の皆から腫れ物のように扱われ、無視という名の暴力に晒され続けた僕を助けようなんてしたから、君まで逃げ出すしかなくなった。
「謝らないで。私だって、あなたのことを傷つけ続けたこんな村で生きるのなんて、ごめんなんだから」
 きっぱりと君は断言した。吹き抜ける潮風に君の髪が美しくなびく。凛と光る誇り高い眼差しで、君は僕へと微笑んだ。
「謝るくらいなら笑ってよ。私はあなたの笑顔が見たい」
 ああ、君がそう言ってくれるから。僕へと手を差し伸べてくれるから。僕はまだこの世界で生きていたいって、そう願えるんだ。
「……ありがとう」
 ごめんね。続けかけた言葉を飲み込んで、どうにか笑顔を浮かべてみせた。君の人生を狂わせてしまったことを、きっと僕は後悔し続ける。それでも君と、手を重ね続けたい。君と二人で、生きていきたい。
 ゆっくりとホームに停まる一両編成の短い電車。ボタンを押してその扉を開き、僕たちは生まれ育った村から逃げ出した。

12/9/2023, 1:38:59 AM