「ねぇ、たまには地上でお月見しない?」
その言葉に、あたしは一瞬 言葉を失った。
逢魔時から黎明にかけては、悪魔が活発に動く時間。…とはいえ、それだけなら、自我さえしっかり保っていれば襲われることはない。
ただ、あたしは「仲間殺し」…人間で言うところの殺人を犯した悪魔だ。そしてあたしにお月見を提案してきた彼女は、あたしの契約者…悪魔視点で見れば、罪人を匿う共謀者だ。
追手共から逃れるために、私達は地上を捨てて、空島へと移り住んだのに…わざわざ夜の地上に降りるなんて、自ら見つかりにいってるようなものじゃない?
「…まぁ、心配なのはわかるよ。危険なのは、百も承知。でも、私だってこの数年でだいぶ強くなったはずだし……たまには二人で、空島では見れないような景色を楽しみたいから」
柄にもなく顔に出てたみたいで、彼女は困ったような笑みでそう言葉を続けてきた。
…まぁ、確かに。契約直後の彼女に比べれば、今の彼女の力は比にならない。仮に悪魔に襲われたところで、今の彼女なら返り討ちなんて容易よね。
彼女の強さは、あたしが一番間近で見てきたしね。
地上に降りたあたしは、彼女にナビゲートされるまま足を運ぶ。そうして小高い坂を登りきったあたしの前に、金色の海が広がった。
…いえ。海に見えるけど、あれは草ね。草なはず、なのだけど…月光を反射して、キラキラと輝いて…とても草とは思えないほど、綺麗…。
「ねっ、地上でのお月見もたまにはいいでしょ?」
「…フフ、そうねっ。」
地上から見る月は、空島の月よりも小さくて、白くて、模様もなんとなくぼやけてた。
でも、金色の海には…その小ささと色がちょうどいいような、そんな気がした。
(「空島」―悪魔と契約者―)
11/10/2024, 11:05:01 AM