「愛情なんて幻想だ。告るなら告って告らねーなら告るな」
ボサボサな髪にジャージを着た男はめんどくさそうに数学の課題を解きながら答えた。
「恋愛感情は認めるのに愛情だと言えば認めないの?」
恋する少年は大量の夏休みの課題が広がった折りたたみ式の机に肘をつきながら不服そうにした。
「恋愛感情は人間が増えるためにあるんだろ。まだ解明されてないことが多いけど。恋愛感情を抱くとドーパミンやオキシトシン、PEAやらのホルモンが分泌される。一種の依存だ。」
「依存だなんて..僕は本気で...好きなのに。」
恋する少年は顔を赤くして下を向いた。
「...そうだ。リストアップしよう。そんなに悩んで俺に相談する位ならそのメカニズムを解明するのに協力しろよ。今から言う質問に答えてくれるか?」
恋する少年は鳩が鉄砲玉をくらった時のような顔をして合理的な友人をみた。真剣そのものである。
「...いいよ。」
「よーし、ならその時の症状はなんだ?」
「...胸がドキドキしてめっちゃ苦しいのと、汗が出て、顔が赤くなる。」
「動悸、出汗、赤面....それだけか?」
ジャージ男は課題の空いたスペースに箇条書きでメモをする。
「一時的な心臓発作みたいな感じだよ。死亡例だってある。正に恋の病」
「あぁ?死亡例もあんの?マジで?やべー」
「うん、マジやべー」
「ほーん、まぁ、これだけじゃデータは不確かだ。他のやつにもまた聞くわ。」
恋する少年は呆れの溜め息をついた。
「あぁ、あっちから告ってくれないかな」
「そんなワンチャンに賭けんなよ。恋愛ではある程度のリスクが必要なのかもしれないがな、知らんわ」
「はぁーあー。君に言ってちょっと後悔してるかも。もっと勇気付けるとかできない訳?」
「後悔はつきものだ。失敗は成功の元。試行錯誤に、挑戦と改善。常にトライアンドエラーだ。」
「さっきと言ってること違くない?ワンチャンにかけるなだったり..... てか、トライアンドエラーって酷いな。」
「勇気付けろって言ったのお前だろ」
「君もきっと、恋すれば気づくさ。君とあまりこういう話してこなかったけど、君の色気話の予感は全くしないね。」
「俺がもし女を好きになったらどう思う?」
「...えっ?」
恋する少年は我が友を見つめた。
その顔は至って真剣である。
いや、実際のところコイツは堅いやつなのでふざけてる顔を見たことがない。
「それはどういう意味?まさか、君。」
「別にまだ解明されてないだけで、その症状を訴える人は大勢いる。確実に存在はしてんだよ。地球はここにあるが、理論では解明できないみたいにな」
「君が結論を後回しとか珍しい。やっぱり」
「お前の言うようなヤツじゃねぇてば。症状が出てるだけで俺はアイツのことを好きだとは1ミクロンも思ってねぇわ。」
「ふふっ、素直になれば良いのに。で、誰なの?好きな人」
「チッ、テメェから言えよ。」
「ははっ、お決まりのヤツじゃん。君とこんな話するなんて思わなかったな」
「早く言えよ」
「分かったよ。君も言ってよ?さくら。」
「......」
ジャージ男(いや、こちらも恋する少年だが、どちらがどちらか分からなくなるので、こう明記させて貰う)はさくらという名前を聞いてから黙ってしまった。
「で、君の好きな人は?」
「さくら」
「は?」
おいおいまさかと言わんばかりに2人は顔を見合わせる。
「まさか、被った?僕と君の好きな人が?」
ジャージ男は暫く黙ってから少し決心したかのように言った。
「俺はいい。お前告れ」
「はぁ?なんで?友情か恋愛かどちらを選ぶかみたいな映画展開になると思ったのに。というか、君はどうするのさ。さくらの事好きなら譲らないのが筋なんじゃないの?そんな中途半端な感情なら君はさくらへの気持ちを認識しないはずだ。」
「俺は勉強に専念する。元々諦めをつけたかった。だから、好都合だ。」
「はぁ?好都合?君は絶対後悔するよ。潔くさくらにアプローチして先に付き合えた方がお似合いだったって事でいいだろう!?それで諦めればいい。はなから諦めるためだけに行動するなんて、どんだけ馬鹿なんだよ!君は。」
「馬鹿?テメェの方が馬鹿だろこの唐変木!俺は親のプレッシャーがすげぇんだよ...こちとら高校入試で浪人もあり得るんだよ!そんな中、恋だ?言ってられるか、そんな事!」
「腹割って話してみればいつも余裕そうにしていたのに、結局君の原動力は親からプレッシャーと不安なんだね。でもそれは自分勝手すぎる。親友の僕とさくらが付き合ったら君の精神状態は勉強どころじゃなくなるだろ!」
「しらねぇよそんな事!じゃあ今から見た目に気配ってアプローチしにいくか?そんなん時間の無駄じゃねぇか。元々、お前の色気話聞き始めた頃から勘づいてたんだよ。今更そんなショックじゃねぇ」
「はぁ?ならなんで言わなかったのさ?ねぇ、君言ったよね?自己療養に励まないで恋に落ちたり遊んでいる奴は全員馬鹿だと!」
「....それは、今の今まで確信がなかったからだ。あぁ、俺は今もそう思う。自分の正義や正しさは時に俺をも貫く。だから!今は諦めるつってんだ。テメェはなんで俺が諦めることに対して否定的だったのに急に俺を敵対し始めたんだよ。」
「敵対なんかしてないよ。ただ聞いただけ。お互い落ち着こう。きっと動揺してるんだ。きっと話し合えば」
「この与太郎、もう今日は帰りやがれ。今夜は顔も見たくない。へなちょこが。明日話し合おう」
「もういい、明日までに2人とも頭を冷やすこと。
「ああ、分かってるわ。抜け作。」
「豆腐かなにかに頭ぶつければ死ぬんじゃないの?」
「朴念仁が。黙れ」
「三太郎とは君の事だったんだね、明日からそう呼ばせて貰うよ。じゃあね、三太郎」
なぜか昔の悪口を言いやってアイツの家を後にした。アイツとあんなに喧嘩したのは初めてだ。しかし、今思えば明日話し合おうとか、頭冷やすとか、わりかし声量以外冷静だったかもしれない。僕も普段は余裕ある方だけど一緒になって悪口言い合ってしまった。あんなに悪口が出てくるなんて。
ーーー
続く〜!
典型的な合理理系男子と、文系の純情少年の好きな人が被ってしまったというただ、それだけです。
恋愛の物語も作らないと....いや、これは友情か?
11/28/2024, 10:10:33 AM