深淵

Open App

『この場所で』2024/02/11

※今回のはフィクションです。

私には好きな人が居た。
そう、居たのだ。過去形なのにも当然理由がある。
彼はもうこの世には居ないからだ。
彼は私を残して先に去って行ってしまった。
彼の死因は他殺だった。
彼を殺した人物は私の幼馴染だった。

あれは付き合って3年のデートの時だった。
私と彼は遊園地デートをしてディナーを終え、
約束の地である。彼に告白された公園へ行った。
それは結婚の申し込みだった。私は涙を流して喜んだ。
しかしその嬉しい時間はすぐに終わってしまった。
幼稚園から一緒だった隣に住んでいた私の幼馴染の手に
よって彼はナイフに刺され大量出血してしまったのだ。
その時、私は何も考えられなくなってしまった。
目の前で急に倒れた彼。
彼の後ろには血のついたナイフを持った幼馴染。
状況を理解した私は慌てて彼の状態を確認した。
彼の背中から大量に流れる血を見て血を止めようと
傷口を強く押した。
それでも気休め程度にしかならず、溢れ出る彼の血は
止まらなかった。
私は彼が死んでしまうと分かってしまった。
視界がボヤけてしまうほど瞳から涙が溢れてきた。
彼は自分がもう助からないことを認知し、
私に最後の言葉をかけてきた。
私は彼の最後の言葉を聞き届けた。
「君より先に逝ってしまう私を許して欲しい。
出来ることなら来世でもまた君と結ばれたい。
私が出来なかったことを君にはこれから沢山して
行って欲しい。そして君が幸せになれることを
祈っている。こんな私と支え合ってくれてありがとう」
そう言い切った彼は静かに息を引き取った。
彼は私が最初で最後に好きになった人。
初恋だった。私は彼のことを溺愛していた。
それはもう依存するほどに。
そして彼も私を溺愛してくれた。
互いに依存している関係だった。
それなのに、彼は居なくなってしまった。
彼を殺した奴を許さないと決めた。
目を鋭くして彼を殺した私の幼馴染を睨みつけた。
幼馴染は「私は君のことをずっと愛していた!
それなのに君は僕以外の男と結ばれて腹が
立ったんだ!君は僕と結ばれる運命にあったんだ!」
だからと言って私の大切な彼を殺した奴を許すことなど
私には出来なかった。
例えこの手を汚して犯罪者になったとしても。
彼が悲しむのは分かっている。
でも、それでもやらなければと固い意思が生まれた。
そこからの行動は早かった。彼を殺したナイフを奴から
奪い、ナイフを振り上げ奴の心臓部に思いっきり
振り下ろした。
奴から溢れてきた血飛沫が私を染めた。
すぐに近所の人が呼んだ警察官がやって来て私は
刑務所へ入れられてしまった。
私は15年の懲役だった。


私は刑務所生活のことなど覚えていない。
ただ彼が居なくなってしまった悲しみから放心状態が
続いたことであまり記憶が無い。
刑務所から出れた私が向かった先は彼が亡くなった
『約束の地』へ向かった。
この場所で…この場所で彼は殺され、亡くなった…
私には彼が居なくなったこの世の中を生きる勇気も何も
無かった。
今はもう深夜。ほとんど人通りが無くなり。
周りには人影が見当たらなかった。
私は用意したロープを近くにあった少し高く太い幹に
ロープを結び、先には首が入る程のサイズの輪っかを
作った。そして私はこの『約束の地』で自殺をした。



私達はこの後のことは何も知らない…
知る者はこの後に見つけた者達だけだろう…

2/11/2024, 3:11:22 PM