「……また会おう」
不気味な程美しく咲き誇る一本の桜を背景に、顔の見えない男がこちらに柔らかく微笑むのだ。
桜の花びらが勢いよく舞い散る。嗚呼止まらない、止められない。
ダメだ、行くな。男は桜の中に吸い込まれる。
桜吹雪が益々激しくなる。まるで男をすっかり覆い隠してしまうように。
必死に手を伸ばす、それでも桜と共に消えてゆく男。
いつもここで目を覚ますのだ。夢の中に毎晩のように出てくる男と、桜。懐かしい声。
「お前は……誰だ……?」
何も思い出せないのに、涙がとめどなく溢れてくる。
必死に記憶を手繰り寄せるも、後に残るのはただただ悲しみという感情だけ。
9/23/2024, 1:17:09 AM