ぬるい炭酸と無口な君
かつて。
私の隣には、
ある人が居た。
私が心を赦した、
大切なひと。愛しい君。
普段は、物静かで、
無口な君だけど、
酒に酔うと、
少しだけ饒舌になる。
君の心の声が聞きたくて、
夜毎勧める盃。
君は遠慮がちに、
ゆっくりと口に運ぶ。
泡立つスパークリングワイン。
部屋の温度につられて、
ぬるくなる炭酸。
止まらない気泡。
そして、
君の口から溢れるのは、
微細な泡の様な、
優しくも秘められた、
心の言葉。
でも、今はもう、
私の前に、君は居ない。
君を想い、
過去を悔やみながら、
重ねるグラス。
ぬるくなる隙さえもない、
スパークリングワインの炭酸が、
私の口内を無遠慮に刺激する。
ぬるい炭酸と無口な君。
戻らない愛おしい時間。
8/3/2025, 9:20:51 PM