池上さゆり

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 恐ろしかった。自分の子どもの成長が。その残虐さが。
 幼い男の子が、楽しそうに蟻を潰したり、昆虫の足をもいだりすることがあるのはわかっていた。成長するとともに、それもなくなっていくだろうと信じていた。
 だが、どれだけ命の尊さを伝えても、理解してもらえない。周囲の人に相談しても、大きくなればやめるようになると言われて無理矢理自分を納得させようとした。大丈夫、そのうちやらなくなる。善悪の区別がつく子どものなると信じていた。
 それなのに、中学生になってもその行動は止まらなかった。なぜかエスカレートしていく一方で、気づけば野良猫に毒餌を与えて殺すようになっていた。近所の犬にもニンニクが混ざった餌を与えて殺していた。エアガンで雀を撃ったりしていた。
 それに気づいていながらも、こわくて咎めることもできなかった。
 だが、息子ももう高校生になる。いい加減逮捕されてしまう前に、親として正しい道に導かなければならないと思い、呼び出した。
「もう動物を痛めつけたり、殺したりするのはやめよう? いつまでも子どもだからという理由で許されることじゃないわ」
「そうだよね。これからなおしていくよ」
 思いのほか、すんなりと受け入れて安心した。これで大丈夫だと思えたことで、この日はぐっすりと眠ることができた。
 次の日、目が覚めると息子が朝食を用意してくれていた。初めての行動に感動して、しっかりとお礼を伝えて口にした。完食した後、息子がニコニコと笑っていた。
「これで最後にするよ」
 激痛に悶えている中、息子は笑ってそばに立っているだけだった。

4/26/2023, 2:02:49 PM