僕は、七色に光る流れ星を見たことがある。
もうすぐ流れるよ。お願いごとはもう書けた?
母さんが僕の手元を覗き込みながら柔らかく微笑む。
「かけたよ!」
僕は竹灯籠を頭上に掲げ、母さんに見せてあげた。
辺りはすでに大分暗く、まだまだ寒さも残る季節であったが、それでもそこには多くの人々が集っていた。
それぞれが手元に抱える願いが書かれた灯籠には、書き終わったものから順にぽつぽつと明かりが灯り、辺りに少しずつ広がってゆく。
知らない人たちとみんなで流れ星を待つ。
それは今思い返してもとても不思議な体験だったように思う。
どれほど待っただろう。
やがて遠くの方でざわめきと歓声があがる。
熱は伝播し、興奮が津波のように僕のところにまで届く。
それは闇を切り裂く一筋の光だった。
遠くでちかりと瞬いたそれはぐんぐん速度を上げて、僕らの目の前を走り抜けていく。
七色の光の束を空へ放ちながら。
僕らの手元には願いを灯した温かな光。
闇夜の中あちらこちらで瞬いている。
まるで、きらめく星空の中に浮かんでいるみたいだと子供心に思った。
綺麗だねぇ、と母さんがぽつりと呟く。
あの流れ星が、みんなの願いを運んでくれるんだって。
そう言って流れ星が流れていった方角を名残り惜しむように見つめていた。
その時の僕は、心ここに在らずな母さんの様子に段々と不安になり、無意識のうちに母さんの服の裾を引いてこちらを向いてもらおうとした。
ハッとした様子でこちらをみた母さんは優しく僕の髪を手で梳くと、明るい調子で帰ろっか!と僕を抱き上げゆっくりと歩き出した。
「母さんは何てお願いしたの?」
ゆらゆらと揺られながら、たくさんの願いが灯った星空の中を進んでゆく。
そうねぇと答える母さんの答えに耳を傾けようとするも、与えられる腕の温もりにだんだん瞼が落ちてくる。
みんなのお願い事が届きますように、かな。
優しく答える母さんの顔が見たいが、眠くて意識がぼんやりとしてくる。
本当に、色々なことがあったから。
みんなみんな、叶うといいねぇ…
ゆらゆら、ゆらゆら
眠りに落ちる直前、最後に聞こえた母さんの言葉だけは、やけに記憶に残っている。
辺り一面の星空と、願いを運ぶために流れていった七色の光。
僕はあの日のきらめきを今でも覚えている。
『きらめき』
/流れ星新幹線のCMを観たので…
9/4/2023, 3:44:02 PM