椋 muku

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チリンチリン。そんな音を立てながらチャリにまたがったまま私の隣に並ぶ奴がいた。

それは学生時代の暑い夏の頃。それはそれはセミがよく鳴いていて汗が滴るような日が続くとある夏のことだった。席替えで隣になったから。たったそれだけの理由で話すきっかけを持つようになった。君とは特に仲がいいわけでもなかったけれど、まるでゲームのように親密度をコツコツと上げようと君は私に近づいてきた。何が目的なのかも分からなかったが私もバカなもんだ。君が近づいてくるのを拒絶せずにすんなりと受け入れたんだ。話しかけに来れば作業を止め君の目を見て会話したしチャリで隣に並ばれても歩道の端に寄って君と帰った。
次の席替えまでなんてあっという間だった。席替えをして遠くへ離れて君と帰る理由もなくなった。
チリンチリン。もう聞くことの無くなったベルの音。鮮明に覚えてるなんてついに幻聴まで聞こえるようになったのね…

「おい、聞こえてないの?いつもみたいに寄ってよ、隣歩けないから」

隣にはいつもと変わりない君がいた。私の顔を不思議そうに見つめているからこれはきっと幻覚ではないのだろう。

「なんで?もう席替えしたから一緒に帰らなくてもいいんじゃないの?」

「ん?え、席替えとなんか関係あったっけ?俺はずっと一緒に帰りたいんだけど?」

そう言って君は何事も無かったようにその日からも変わらず私の隣へ並ぶようになった。



いつしかそんなベルの音も聞かなくなった。大人になったからだろう。

「綺麗だよ、俺だけの花嫁。誓いのキス、していい?」

こくりと1つ、そしてゆっくり頷くと君はこのキラキラと光るベールをめくった。ベール越しで見るよりもはるかに君は男前でカッコよくなっていた。目を閉じると君が優しくキスをする。
その途端、後ろの大きなベルが私たちを祝福するように鳴り出した。まるでおとぎ話のハッピーエンドみたいで。

チリンチリン。そんなベルの音とは比にもならないくらい立派なベルの音。そう、もうチャリを押しながら私の隣を歩く君はいないのだ。お揃いの指輪をはめて永遠を誓った生涯のパートナーで愛する大切な人。君はもうただのクラスメイトじゃなくて私の誰よりも大切な旦那さんになったのだ。

「どうしたの?」

「ねぇ、結婚式の時に言えなかったこと言ってもいい?」

「うん、どうぞ?」

「すごくカッコよかったよ。私も愛してる、大切な大切な私の旦那さん」

君が嬉しそうに照れて私は君にまた優しくキスをする。

題材「ベルの音」

12/20/2024, 12:19:31 PM