たぬたぬちゃがま

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「ねぇ、好きだよ。」
「うん。」
「大好きですよー。」
「はい。」
頭をグリグリと押し付け、彼へ愛の言葉を投げかける。彼はボソボソとした口調で返事を返すが、絶対に好きと返してくれない。
「ぎゅーしようって言って。」
「ぎゅー……しよう?」
「なんで疑問系なの!!」
どす、と勢いをつけて彼の広げた腕に飛び込む。ぐえっと声を出していたが気にしない。
なんか私ばっかり好きな気がして気に入らない。
「そんなんで私がどっか行ったらどうするの?」
「……だって君、僕のこと好きでしょ。」
「そういうとこ!!」
もう一度力を込めて頭突きする。本日2度目のぐえっという声を聞いたが気にしない。
しかし、こんな扱いをされても離れる気は起きないのが不思議だ。頭突きをしても怒らないからだろうか。

声を張り上げて宣言するくらいには、好きなのに。感嘆符がいくつあっても足りない。
よいしょ、と彼の膝に乗り背中を彼の胸に預けると、すっと手を回して引き寄せてきた。こういうところが好きなんだよなぁ。
なんだか腹が立ったので、ゴスゴスと後頭部で胸を攻撃してやった。

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彼女は今日も言葉をねだる。
ハキハキと自分のして欲しいことをいう彼女は、一緒にいてとても楽だ。これが多分、好きという感情なんだろう。
今日はどこか行ったらどうする?なんて試すようなことを言ってきたけど、そもそも彼女はそうなったら話し合いの余地も作らずさっさとここから立ち去っていただろう。つまり立ち去る気がないから出た言葉だ。
彼女をドロドロに甘やかして、離れられないようにして。でもエッセンスも必要なので少しつれなくして。
気付かれないように彼女の心に枷をつけて、勝手にどこかに行ってしまわないようにして。
言動の全てが愛らしくて、すべて囲って出られなくしたい。ぐらぐらと腹に湧く欲望を悟られないよう蓋をして。
彼女が自分から飛び立たないようにして。

声を張り上げて叫ぶだけが愛じゃないんだよ。
感嘆符がいくつあっても表現しきれないから。
自分なりの愛をわかって欲しいけど、悟られたくない。そう思いながら、口を尖らせて不満げにする彼女の頭頂部に、そっと口付けを落とした。


【!じゃ足りない感情】

8/16/2025, 10:08:02 AM