毎日のご飯なんて、食べられれば何でも良いつもりだった。
けれども残念なことに、親父に任せていたらお世辞にも美味いものなど出て来やしない。
だから仕方無く俺が台所に立つ事が多くなって、親父の腕はすぐに越した。
今日は何を作ろうか、なんて考えながら帰るのも苦ではなくて、今ではもうすっかり毎日のルーチンに組み込まれている。
必要に駆られてやっているだけで、特技と呼ぶにもきっとおこがましい。
習慣にこそなっているが、きっと俺の料理スキルなんて自慢するほどでもない。そう思っていたし、人様に披露するつもりも毛頭ないものだった。
だから、びっくりしたんだ。
家庭科の授業で、彼女が俺の料理を手放しで褒めてくれたときは。親父以外に喜んでくれる人がいるなんて思いもしなかったから。
「料理好きなの?」と食いつく君に恥ずかしくて、別に、なんて無愛想に答えたのに、「好きじゃないのにここまで出来るなんて凄いよ!」とさらにベタ褒めしてくれたのが嬉しくて。
「ねえ、料理部に入部しない?」
と、端から見ればなかなか強引な勧誘にも、思わず「うん」と頷いてしまったのだ。
だって、しょうがないだろう。
俺の料理を「美味しい」と食べてくれた君の笑顔を、もう一度見たいと思ってしまったのだから。
女ばっかりの部なんて、正気だったら絶対に入らない。
案の定、クラスの仲間は早速茶化してきた。
だけど、後悔はしていない。
部長の君は、俺のことなんて何とも思っていないのだろうけれど、そうやって、純粋に俺を褒めてくれた君だからこそ好きになったのだ。
不純な動機を許してくれ。
部員が欲しかっただけなのも分かっている。
もう料理が好きじゃないなんて言わないから、部活の時間くらいは隣に居させて欲しい。
花より団子の君だから、まずは胃袋から掴ませて。
そしていつかきっと、俺ごと好きって言わせてみせるよ。
(2024/03/25 title:016 好きじゃないのに)
3/26/2024, 3:44:29 AM