わをん

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『ススキ』

着の身着のままで逃げおおせてきた私は遠く燃え盛る城を振り返る。誰に攻め込まれてきたのか、何のための戦なのかわからないまま逃げろと言われてここまで来た。至る所に生えるススキの葉はカミソリのような鋭さで寝間着から出た素肌に細かな傷をいくつも作り、ヒリヒリとした痛みが私を苛ませた。
それでもなんとか逃げようと動かせていた私の足は橋の向こうが落とされてごっそりと消えてなくなっていることに気づいて歩みが止まる。城はもうすでに焼け落ちて崩れ去った。振り返る先にあるのは一面のススキ野原だけ。ススキの穂には綿のような花が咲き、それが月の光に照らされて銀色に光っている。夜風になびくススキがさざなみのように揺れて、丘一面のススキ野原は大海原のようだった。
人のひとりもいない野原で私はその美しさに目を奪われていた。そして漠然と、ここが私の死に場所になることを思っていた。いずれ追手がやってくる。それまでに覚悟を決めなければならなかったが、まだひとときはこの光景を目に焼き付けることは許されるだろう。誰に言うでもない言い訳をしながら、私はずっとそこに立ち尽くしていた。

11/11/2024, 3:37:25 AM