ひとつだけちょうだい
幼子は僕に縋るように手を伸ばす
両の手をいっぱいに広げて
だが、僕にはその子が求めているものがわからない。
だって僕は何もない。
何もない僕から、空っぽの僕から、この子は何を欲しいのだろう。
僕はその子と一緒で、両手は空いているし、
その子と一緒で衣服はボロボロ。
家だって、
お金だって、
たべものだって、
飲み物だってない。
そんな僕はその子に何をあげられるだろう。
ちょうだい
その子はまた声を出す。
助けを求めているような、か細くて拙い声
でも助けが欲しいわけじゃないって僕は知ってる。
そうだいいことを思いついた。
こらなら、僕も分けてあげられるし、僕もその子から貰える。
僕はその子と一緒に手を伸ばした
まるで背伸びをするように
小さな傷を隠すように
大切なものを抱きしめるように。
愛をひとつ、君にあげるね
街の道端で二つだけ、愛が転がった。
4/3/2024, 3:03:52 PM