#星空(ややセンシティブな内容を含みます)
今日の夜は快晴、ちゃんと星空が見える模様。それがどれだけ嬉しいことか、わかる人がどれだけいるのだろう。あの日からまだ数年、されど数年。記憶は確実に薄れていっている。
5年前のあの日、激しい長雨によって引き起こされた洪水と土砂崩れ。深夜に何度も鳴り響いた警報。みるみる道が川へと変わっていく。まるで滝のように、高い土地から低い土地へと濁流が落ちていく。まるで映画のワンシーン。天変地異、あるいは、邪悪な魔法使いが大暴れしているかのよう。ごうごうと凄まじい音を立てて水は流れ、それに負けないくらいの勢いでバケツをひっくり返したかのような雨が降る。
翌朝。晴天の下に現れたのは、一晩濁流に揉まれ続けて茶色に染まった町。どこもかしこも濁った茶色の水に浸かっていて、民家の一軒一軒が一つの島のよう。それでも、夜よりは水位も下がって流れは遅いから、長靴を履いてザブザブと川と化した道を歩いてみる。数歩進んで道の端に差し掛かった頃、ガツンと足が何かに当たった。引っ張り上げてみたら、自分の自転車だった。鮮やかなオレンジ色のフレームも、濁った水の中にあっては見えない。車輪には無数の小石と砂が挟まっていて、水で綺麗に洗い流したところで使い物にはならないだろう。
テレビを見れば、自分の町と大差ない、あるいはそれ以上に悪い状況の地区の映像が映る。未だ水位が高くてボートで移動している人たち、自衛隊のヘリコプターで救助される人たち。土砂で埋まった線路。崩壊した高速道路。家屋の全壊、半壊、床上浸水、床下浸水。負傷者。行方不明者。死者。時間と共に被害が明らかになっていく。壊されたものが、失われたものが、明らかになっていく。
この年、自分は人生で初めて七夕を祝わなかった。
それ以来、七夕が近づくと天気予報が気になる。今年はちゃんと星空が見えるのか。ちゃんと七夕を祝えるのか。七夕を祝えるなら、それに感謝しなければならない。星空が見える夜は、平和の証なのだから。
2018年 平成30年7月豪雨(通称:西日本豪雨)
死者237名 行方不明者8名 負傷者432名(消防庁)
亡くなった方々のご冥福をお祈りします。
7/5/2023, 3:48:31 PM