ずい

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『逃れられない』

牢屋から逃げだすときにスプーンで壁を掘って進む場面を見たことがある。
今いる牢屋に鍵はなく、戸もなく、もちろんスプーンはないがそれを使う必要もない。
出入り自由だ。だが食べ物を探しに行ったり脱出したりすることはできない。しばらく歩いていくと、気づけば見慣れた道に戻り元の牢屋にたどり着いてしまうのだ。
他の囚人も同じことを言っていた。
恐ろしいのは行く先で会う囚人が定期的に変わることだろうか。かつてのこの国の姿を思い浮かべるにはそれだけで十分だった。

今や牢屋だらけとなったこの場所。
かつては迷路の国と呼ばれていた。

旅人泣かせ、行きはよいよい帰りは怖い、出国に手間取った国No.1など通り名は数多い。
そこが罪を犯した者の収監所にされたのは十数年前。
最後の王が崩御された翌年のことだった。

私はこの国ついて調査しにきた学者だ。
入国して早数日。出られる見込みはまだない。

5/23/2024, 3:10:17 PM