Nobody

Open App

夜のネオンに息を吐く。
タバコの煙なのか、ため息なのか、今の私には区別もつかない。
肺の空気が抜け切ったところで屋上の手すりに背中預け、ちらりと隣を見やった。
「……で、なんだっけ?」
「だからぁ、本当に後悔してないのって」
これでもか、と髪をぐるぐるに巻いたブロンドの女が、責めるように眉根を吊り上げる。
「あー」
ふと階下をみると、若い男が中年のサラリーマンを怒鳴りつけ、建物の壁に追いやって暴力を振るっていた。
「……なんて言ったらいいか分かんないけど、」
適当な言葉が思い浮かばない。どんな言葉もご立派すぎて、チープな私の身の丈に合わない。

「後悔だらけの人生で、今が1番楽しいよ」

柄にもなく、笑ってしまった。
隣の女も釣られたのか、小さな笑い声が口から漏れる。
「じゃあ、いこうよ」
女は私の手を取って、力強く握りしめた。
「そうだね」
私は静かに頷いて、一歩前に出た。
強い風に私たちの長い髪が揺れる。
最期にサラリーマンと目が合った気がした。

[手を取り合って]#7

7/14/2024, 12:07:16 PM