バターナイフを手にとって
木製のバターケースに載せたバターを削る
一回、バターを削った
食パンの上に載せられたバターは
トースターの中でとろけて
カリカリのトーストに染みこんで
美味しい朝食になった
三回、バターを削った
フライパンの上に塗り拡げられたバターは
牛乳が加えられた溶き卵と溶け合い
フワフワの半熟オムレツが出来た
フライパンの上に、脂質とタンパク質で焼けて焦げが残った
十回、バターを削った
ボウルに投げ込まれたバターは
小麦粉、牛乳、卵と一緒くたになり
フライパンの上に注がれて
小麦色のパンケーキになった
バターの味はしなかった
パンケーキはとても美味しかった
三十回、バターを削った
掌に塗り拡げられたバターは
乾燥でヒビ割れたカサカサの肌の破れ目に浸透し
潤した
このバターじゃなくてもよかった
百回、バターを削った
カタンと、バターナイフがバターケースを叩く音だけが響いた
バターは無くなっていた
新しいバターを足さないといけない
「このバターの値段はおいくらだったかしら?」
「−I LOVE…−」
1/29/2023, 2:28:46 PM