さと。

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(テーマ:ハッピーエンド)


主人公が悪役を倒してヒロインを救う、なんて話はありふれていて、王道だ。
その中で毎回倒されるのは悪役。
推理小説でも異世界ファンタジーでも悪役は負かされる。全てではないが、まあ大抵そうだろう。

みんな、ハッピーエンドが好きなのだ。

「はぁ…」

スマホの電源を切って、ベッドに投げ捨てる。
人気アニメの最終話。
予想はしていたがまたしても主人公の勝利で、悪役である魔王はというと、これでもかというほどコテンパンにされて消滅した。

「主人公って、何でこんなに思想強いんだろうね?」

「んにゃあ」

床の上で長くなっている猫に聞いても、気の抜けた声しか返ってこない。

主人公は大義を持って悪を制する。
悪役も大義を持って主人公の一味を迎え撃つ。
それなのに、悪役は非難され、罵倒され、倒される。

「悪役だって悪いだけじゃないのは周知の事実だけど、いつだって読者は主人公を応援するよね。ほぼ無意識だろうけど」

猫からの返事はないが、それがかえって私に文句を漏らさせる。

「悪役を主人公にした話もあるけど、それだと正義の立場にいる奴らと和解するエンドになるし…。たとえ悪役が正義を打ち倒しても、多分バッドエンドと呼ばれるだろうし…」

窓の隙間から生ぬるい風が吹いてきて、カーテンを揺らす。
外は夕焼け色に染まっていて、どこかの家の夕飯の匂いが風に乗って流れてくる。

「私がまだ読んでない話もたくさんあるのはわかってるんだけどね。それでも、やっぱり…」

世間一般的に悪役は受け入れられないものだ。
そもそも悪と定義するのは、世間の多数の声。
多くの人が悪に反対するのも頷ける。

わかってる。
わかってるけど。

「父さんは、やっぱり…」

悪じゃないとは言えない。
悪いことはした。
でも、それは母さんのためだ。

物語では悪役を悪役たらしめる出来事が描かれるのはよくあることだ。
そして、同情を誘うものも多くある。

けれど、悲しい過去のある悪役であっても、負ける運命にあるのだ。

「あんまりだよ…」

私の父親は、小さな商店を襲って金を奪い、押さえつけてくる男たちを、隠し持っていた包丁で傷つけ、その後逃走した。
お金が用意されたことで、母は手術を受けられた。

それからすぐに父は捕まった。
治療を受けた母は回復したものの、父のしたことに涙を流していた。

思い立ってからすぐの犯行だったのだろう。
家に警察が訪ねてくるまでは、そう時間が経たなかった。

馬鹿だ。
そう、馬鹿なのだ。
貧乏な家庭のせいで、母が病気で手術を受けなきゃいけなくなったが、お金がなかった。
そうなってすぐ、父は金を盗むことを考えた。
工場での稼ぎでは到底足りなかったそうだ。

父は自分の最愛の人を守るために、他者を傷つけた。

本当に、馬鹿で、盲目的で。
暴悪で、不埒で、卑劣で。

でも、愛だった。
父の、母に対する愛だった。

部屋に影がさしていく。
段々と暗く青く染まっていく。
明かりをつける気にもなれず、ぼんやりと頬杖をつく。

「…あ、そっか」

何となく、わかった気がした。
いや、多分分かっていたけど目を逸らしていた。

みんな見たくないのだ。
暗い話や考えさせられる話は、向き合っていると疲れてしまう。
だから自然と、楽で幸せなハッピーエンドを望んでしまう。

猫背になっていた体を起こして、限界まで伸びをする。

お腹が空いてきた。
今日は何を作ろうか。

椅子から腰を上げて、キッチンに向かう。

ハッピーエンドは表向きの、世間体での幸せな結末でしかない。
その裏に、どんな悲しい出来事や残酷な事実が隠れていても、それが少数ならバッドエンドにはなり得ない。

でもそれでも良いのかもしれない。
いつまでもうじうじ考えてもいられない。
だってお腹は空くのだから。



もしも仮に、これが物語だったら。
ハッピーエンドになるのだろうか。それともバッドエンド?
その区別の仕方は、読み手によって変わるのかもしれない。
なら深く考えても仕方がない。

お腹がが空いたなら、ご飯を食べる。

それくらい単純に考える時があっても、良いのかもしれない。

3/29/2026, 2:20:57 PM