呼吸するために酸素は必要不可欠。
同じくらい大事な子が私にはいる。
「ただいま。リーヤ」
硬質で黒い毛並み。伏せて目を閉じていたけれど
開けば瑠璃色の綺麗な瞳が現れる。
太く立派な尾を揺らしじゃれついてくる狼犬は
見知らぬ人には無愛想。
家族には甘えたで人懐っこい姿を見せる。
出迎えてくれるだけで癒しを与えてくれるリーヤには
秘密がある。
「……久しぶりに戻れた」
精悍な顔つきの青年が息を吐く。
他ならぬ彼がリーヤである。悪い魔術師に寿命を奪われ
呪いをかけられた。昼間は狼犬として過ごすことを余儀なくされ、満月の時にのみ人の姿に戻れる。
剣と魔法が活躍しそうなファンタジーな話だが
リーヤこと彼には現実。呪いは少しずつ体を蝕み、瑠璃色の髪は半分近くが黒く染まった。
呪いが完全になる前に解呪しなければ命はない。
淡々と事実を語る彼の横顔を思い出すと切なくなる。
1人で生き続けなければいけないなど運命は残酷だ。
「……どうした?悲しそうな顔をして」
「1人で生き続けて寂しくないの?」
「今は1人じゃないからな。君が居て、君の家族が居て共に過ごせる。寂しくなんてないさ」
大きな手で頭を撫でられ困惑する。
彼の目には温もりが溢れ嘘をついてるように見えない。
「それに君は俺にとっての生きる理由……酸素のように当たり前に側にあるべきものだからな」
彼の発言の意図が分からず首を傾げれば笑った。
彼は語る。
遥か遠く、彼が人であったころ愛した女性。
その人を探し出すのが、彼の生きる理由。
彼が一途に愛し続ける女性に興味が湧いたが
聞いても答えてはくれなかった。
代わりに微笑み一つ。
答えを知るのはずっと先のはなし。
5/14/2025, 11:47:33 AM