七瀬奈々

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 そろそろ冬支度を始める日。私は物置から少し小さめの箱を1つ取り出した。両手で持てる程の大きさしかないそれは特に何かロゴや柄がある訳でもなく、とてもシンプルな茶色の箱だった。

 私はそれを宝箱にしていた。蓋を開けると、散らかったようにも見えるまとまりのないあれやこれやが無造作に入れられている。整頓しようにも『大好きなものがたくさん入っている』この光景が愛しくてなかなか掃除することが出来ない。

 例えばおはじき。ガラスでできた色とりどりの平たい玉が5つくらい、散らばって入っている。
 例えば人形の服。何度見てもどうして服だけ入っているのかしら? と思うけれど、かつての私はこれにひどく心動かされたらしい。
 例えば可愛らしいボールペン。もう壊れてインクは出ないけれど、青とピンクの模様がとてもお気に入りだった。

 その中から1つ、真ん中に入っていた球体を取り出す。平べったい台座と丸いガラス、中には小さな小屋の置物と赤い服を着た人形。

 そう、サンタクロースのスノードーム。私はこれが宝物の中でもいっとうお気に入りで、冬が来ると宝箱から取り出して眺める。毎年の冬の恒例行事だ。上下をひっくり返してから戻すと、小さな雪がひらひらと降る。この手のひらの中の冬が可愛らしい。
 表面を布で綺麗に拭いてから本棚の一角に飾る。しばらく眺めて、またひっくり返して、元の位置に戻す。雪がぱらぱら降ってくる。

 ここは温暖な気候で、雪は滅多に降らないし積もらない。だけど冬の夜はひどく寒くて、それでも雪が降らない土地が恨めしかった。雪が降る土地への憧れもあった。
 だからこのスノードームはお気に入り。ここで唯一雪が降る場所。私の手のひらの中で、小屋には今日も雪が降る。


「他にもたくさん入ってるのよ。私の宝箱、見せてあげようか?」

「同じ話を毎年聞いてるから今年はいいよ……」

「何回話しても足りないわ! それなら今年も付き合ってもらおうかしら」

「ええっと、用事を思い出したから、僕は今日この辺で失礼するよ……また今度、お菓子を持って来るからその時に聞かせてね」

 とりとめもなく話せる、私の宝箱。



お題:冬は一緒に とりとめもない話(昨日分)

12/19/2023, 3:19:10 AM