キャップなんぞ被っていたら、頭皮の汗がひどくなって、蒸し暑く、痒くなってくる。 その点麦わら帽子は穴だらけだから、風通しがいい。
ミンミンミン、セミが爆発しそうな勢いで叫び散らして、暑さとうだっている。
腕は汗でべたべた、服は当たり前に張り付いて、僕は首をカクンと後ろへ倒し、巻いた氷の冷たさを感じた。
立ち上がる気力もない。
下げてた水筒が、ベンチへ、がッと衝突した。
寝転ぼうとおもって、体を傾けたら、そうなった。
足は下ろしたまんま、ぐでーっと寝転ぶ。
被っていた麦わら帽子のツバが折れた。
さっきとあまり景色は変わらないが、耳が片っぽ塞がれて、セミの声や、木々のささやきは遠くなる。
目を閉じた。
こうすると、セミとか木々のささやきとか、暑さは、どこか別のところから感じているように思える。
胸からピンポン玉みたいな、僕の魂が出てきて、大地を揉んだ風にのまれる。
涼しい。
そう思っていたら、涼しくなる。
ほら、なんかめっちゃ、ほっぺが冷たい。
眉間にシワをよせて、目をほそーく開けてみると、目の前にズボンが見えた。
「……熱中症になるよ」
わっと思って起き上がると、そのひともわっと驚いた。手には、水のペットボトルがある。
ほっぺに手を当てると、そこだけ冬みたいだったのに、そのくせ汗はひどいから、肌と肌同士がベッタリした。
「顔、めっちゃ赤いな。大丈夫?」
そのひとは、僕に、その水を差し出してきてくれる。
「いや……」
僕が水筒の紐をたぐりよせて、水筒握って、そのひとにんッと見せたら、そのひとは「そっか」と言ってひっこめた。
そんで、僕の隣にすわった。
僕が水筒のフタをポンッと開けると、そのひとも遅れてキャップを回す。
氷でキンキンの水をゴキュッと飲んだ。
チラと隣を見る。
そのひとは飲まずに、僕の方をじっと見ていて、目が合った。
「ビックリしたよ。倒れてんのかと」
柔らかい笑顔でそう言われて、僕は水を飲みながら「ンッン」と笑う。
「いや、笑い事じゃないんだけどさ……」
僕が水筒から口を離して、カチッとフタを閉めると、そのひとはペットボトルを口に当てて、水流し込んだ。
結露で生まれた水滴が、そのひとの顎や手に滑って、地面へふる。気持ちよさそうに。
そのひとはペットボトルを口から外して、キャップを締めると、立ち上がる。
「そんじゃあ。気をつけなよ」
軽く手をあげて、公園から出ていった。
なにしにきたのか、わからない。
けどいいひとだった。
麦わら帽子被っててよかったな。
もしキャップ被ってたら、きっともうとっくに家へ帰ってたもんな。
ベンチにふともも打ち付けながら、空見ると、入道雲が立派に育ってる。
8/11/2024, 1:35:22 PM