※遠くの空へ
「悪い人は飛ばせないんだよ」
祖母が紙飛行機……のようなものの折り方を私に教えながら呟いた。
「何故かね、これは悪い人が空に向けて放っても、必ず地面に落ちてしまうんだ」
「そうなの?不思議だね」
相槌を打ちつつ祖母の真似をして紙を折る。
「あぁ。だからね、ここいらじゃ昔、お見合いの際にこれをする儀式があったくらいさ」
「え、それガチのやつ?」
「お見合いが破綻したら一家ごと引越しちまう。それくらいのさ」
「おーわ、こえぇ……」
「だからアンタも婿さん連れてくる時ぁやるからね」
祖母が私を見てにこりと笑うが、目が本気だった。
「結婚する報告で審査されるのかぁ……」
私は遠くの空に霞むほど飛ばせたそれを、未だ出会えてもいない結婚相手に何と説明しようかな。どう聞いても迷信の類だったから、私は少しだけ首を傾げた。
8/16/2025, 1:05:26 PM