「今は君に預けるしかない…」と、その者は言った。
「とも綱はおぬしがしっかり結んでおけ。そればかりは私ではどうにもならん」と、私は言った。
壊れ壊れて、また壊れるばかりだった少女を預かっている。どんなに壊れても、「死ねば楽になる」などという妄想も木っ端微塵になるところから、私のところに預けられた。
私はこの少女に「希望を持て」と言わない。
彼女が「消えたい。それか砂になりたい」と言ったときは、「消えることはできない。砂はただの擬態だ。何もなくならない」と言った。
私に彼女を預けた者は「進んでるのかな、進めるのかな」と、辛そうに俯いていた。私は「あの子がここに来たときと今の違いを見ろ。心配はわかるが、“つぎの段”の無い者は何処にも居らぬ。…今はおぬしの目前の段をゆけ」と言った。
彼女は自分の選択の数々を怒りで苛んでいた。
私は言った。「それらは全て、生きるための選択だ。ひたすらにただ、がんばったのさ。…がんばったろう?」と。彼女は数瞬、記憶を辿るように瞳をくるくるしてから言った。
「うん、がんばったよ。私がんばった」
最も重要な“希望のたね”のもとへ、彼女をたどり着かせることには成功した。今後はこれが彼女の“基準点”として活在する。まだまだ長丁場だが…
3/3/2024, 1:59:21 AM