お題:1000年先も「太陽」
子供の頃、宇宙図鑑が怖かった。
ブラックホールのページは、うっかり開いてしまわないよう気を付ける位に恐れていた。
けれども、ブラックホールより僕を絶望させたのは太陽だ。
太陽はいつの日か膨張を始め、太陽系の星々を飲み込んでしまうのだという。
僕は消し炭の様に燃え尽きる地球を想像し、その日1日中布団の中で震えていた。
母は大丈夫、大丈夫と僕を慰めた。
「100年先も大丈夫?」
「大丈夫よ」
「1000年先も?」
「大丈夫」
そうか、1000年先も大丈夫なら、きっと大丈夫なのだろう。
母はもしかしたら嘘をついたのかもしれないと思ったりもしたが、それ以降太陽が地球を飲み込むことについて考えないようになった。
大人になった僕は、幼き日々と真逆なことを考えている。
50億年後か60億年後、太陽は超新星となり地球を飲み込むだろう。
僕は、ガラス細工の様に熱せられ、光を放ちながら消滅する地球を想像する。
個人の幸福も不幸も生も死も、世界歴史と同次元に核と融合し、構成元素をより重い貴金属へと昇華させる。
そんな身の丈遥か上の事象に想いを馳せると、僕の心は水の様に冷たく穏やかになるのだ。
2/3/2024, 10:34:05 AM