谷折ジュゴン

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創作「失恋」

ただ、あの人と話すチャンスだと思った。なのに楽しそうに本の感想を友達と話していたあの人を悲しませてしまった。何で、あんなこと言っちゃったんだよ、オレは。

オレが好きなあの人は、穏やかで優しくて笑顔がとっても似合う人だ。それで昨日、不思議なことを言っているのを聞いたんだ。

「この小説、塩昆布の味がしておいしいんだよ!」

塩昆布の味の小説って、どんな小説だろう。表紙をよく見てみると有名な推理小説だった。この人、意外と不思議な人なんだ。あ、良い会話のきっかけを見つけたぞ。よし早速、話しかけよう。

「なぁ、なぁ、小説がおいしいって紙食べたのかよ、何かヤギみたいだな、うめぇーうめぇーって」

おどけたオレとは反対に、 一気にその場の空気が凍りつく。凍りつくだけならまだしもあの人は、一瞬、怒りと悲しみが混ざった顔をしてた。それからあの人はやたら明るく笑って「面白いね」って言った後、暗い顔でとぼとぼ教室を出ていったんだ。

オレはただ、あの人と一緒に笑いたかっただけ。なのに、考えなしにオレがふざけたばっかりにあの人の心を傷つけてしまったんだ。オレはこれからどれだけ謝れば良いんだろう。あの人が元気になるのにオレができること、あるのかな……。オレの恋心は、恋とは程遠いものになってしまったみたいだ。
(終)

6/3/2024, 12:16:51 PM