谷折ジュゴン

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創作「風に身をまかせ」

もう、抗うことはない。もう、隠すことはない。
ここにはワタシを嗤う人はもういない。
いないはず……いないはず。

「はぁ? 甘い味がしたって、ワタシの詩の詰めが甘いってこと? 」

「そういうことじゃなくってね、その……」

わたしには文章に味を感じる不思議な感覚がある。実際に食べているわけではないが何かしらの味を感じるのだ。しかも、感覚はコントロールできない。

時には複数の味が混ざることもあるけど、この人の詩は純粋な甘味を感じた。内容はシリアスな詩だったのに。これは、言えば言う程さらに墓穴を掘ってしまいそうだ。

「……ちゃんとしたこと言えなくてごめんね」

「良いよ、あんたにはもう見せないから」

つんと視線を外して、彼女は行ってしまった。どうやら本気で怒らせてしまったようだ。

放課後、 公園で一人落ち込んでいると友人がやって来た。友人である彼女はわたしが感覚のことを明かした唯一の相手だ。

「あの人、すごい気難しいから。誰が何言ってもあんな感じだよ」

「そうなんだ、わたし、嫌われたかと思った」

友人はいちごオレのストローから口を離し、わたしをまじまじと見る。

「そうだねぇ、まぁ、うかつに文章への感想とか言えないのはつらいよね?」

「うん……いちいち説明する訳にもいかないし、比喩だって誤魔化すのも何度も使えないから」

わたしは小さくため息をつく。空気を明るくするように、友人はよいしょと声を出して立ち上がって伸びをする。

「ま、風に身をまかせてれば良いんじゃない。悩んでたって成るようにしかならないしさ」

風に身をまかせて、か。友人の言葉は淀んだ胸の中を爽やかに吹き抜け、わたしを元気づけてくれたのだった。

(終)

5/14/2024, 2:24:00 PM